「鋏は鉛筆や木炭以上に、線描の感覚をものにすることができます」
画家アンリ・マティス(1869-1954)は70歳を過ぎた晩年になって、
「切り紙絵」に行きついた。
この技法はこの画家に、”はさみでデッサンする”という
制作と表現方法の革新をもたらしたと言われる。
マティスは、通常の絵画製作につきものの「線と色」「図と地」といった境界を曖昧にして、
「色彩と同時に形を作り出せる」ということに、切り紙絵の可能性を見い出していった。
当時、マティスのアトリエには壁いっぱいの切り紙絵が貼り出され、
それはまるで判じ絵を見るような喜びを与えてくれたという。
紙と鋏と手のセッションによって、
ある種のルールや制約を受けつつも即興的な自由度の高い制作を実現するこの技法を、
マティスは音楽のジャズに比して、自身の切り紙絵画集を『ジャズ』と名付けた。
[参考:アンリ・マティス『画家のノート』、1978年]