「千数百枚に及ぶこれらの切紙絵はすべて智恵子の詩であり、
抒情であり、機智であり、生活記録であり、この世への愛の表明である。」
詩人高村光太郎は妻、智恵子の切り紙にこう賛辞を贈った。
油彩画で壁に突きあたり、徐々に精神を蝕まれていた智恵子さんは、
病床で夫が差し入れする千代紙に爪用の小さな鋏を入れて、
身の回りのものを題材に紙絵を作り始める。
光太郎の回想によれば、
彼女は食膳が出ると皿の上のものを紙で作らないうちは箸をとらず、
看護婦さんを困らせたという。
最期の日、
紙絵をひとまとめに整理したものを夫に手渡し、
安心したように微笑むと、智恵子さんは静かにこの世を去った。
[参考・図版:高村智恵子『智恵子の紙絵』、1965年]