平凡社と北京の三聯書店、日中の出版社によって共同出版された『魯迅の言葉/魯迅箴言』。
昨年の第46回造本装幀コンクール、第18回APPA(アジア・ 太平洋出版連合)出版賞につづき、この度はるばる海を越えて、権威ある「世界で最も美しい本2013」銀賞を受賞しました。
ともに編訳作業の苦楽を共にした韓氷いわく、
「中国陝北の長老たちへ、ドイツの専門家たちへ。この本の描く動線は広い」!
この本はブーメラン、あるいは塞翁が馬の逃げたと思ったらお嫁さんをつれて帰ってきた馬のように、刊行後二年経った今、また新しい宝物をもってきてくれる不思議な本です。
それもこれも原さん・程黎さんのこだわりの装丁チーム、
私たちのつたない訳を魔法をかけて生き生き生まれ変わらせるのみならず、文学作品を作者の言葉として訳す姿勢を一から教えてくださった監訳者の中村愿さん、
一筋縄ではいかない役者たちの間にたって暖かくリードし、難しい装丁を実現してくださった編集者の山本明子さんはじめ平凡社の皆々様、
共同出版の最初のきっかけを作り、その後も縁をつないでくださったエクスプランテ社長の下中弘・菜穂さん、平凡社の下中美都さん・・・
ひとえにたくさんの関係者の方々のおかげです。改めてお礼を申し上げたいです。
「紙の本としてたびたび手に取り、日々ひらける聖書のような本にしよう」と始まったこの本が、原さん・程さんのデザインと日本の造本の高い技術によって、
「美しい本」としてより広い世界へと届くことになるとは、本当に嬉しいの一言です!
それと同様に嬉しかったのは、昨年末に久々に調査で滞在した中国陝西省北部の農村で、本書を読んでくれた長老たちの反応でした。
彼らが中国版の白本を「気持ちがいい本だ。こんな本はみたことがない。中にいるのは新しい魯迅だ。開 くたびに発見がある」と、
たくさんのしおりを挟みこんで、毎日声に出しながら好きなフレーズを方言混じりに読みきかせてくれたこと。
宴席で現地のお役人に、「両国が領土問題でもめている最中によくここに来れたもんだ。おれら中国人は日本人を憎んでいる!」とくだを巻かれたとき、友人たちが本書の一節をひきながら、「こんな素晴らしい本を作っ た精神に我々はむしろ学ぶべきだ。この子はむしろ両国にとっての国宝だ」とかばってくれたこと――
『魯迅の言葉』に勇気づけられ、わが身を守られる幸福を幾度も体感してきました。
私自身も刊行から二年間のあいだに家族を亡くしたり、東北の被災地を訪れたり、日中関係悪化のただ中を経験し…と心境や環境が変化するなかで、魯迅先生の言葉がより身近に、身体の深くまで響くようになったように思われます。
いや、本書の編訳段階で魯迅の言葉と出会い、向き合ううちに、知らず知らずのうちにその価値観や目線が私自身のなかに入りこんでいて、それが二年間をかけて熟成されたとでもいいましょうか・・・
〈名の知れた人の言葉が、すべて名言であるとは限らない。少なからぬ名言は、むしろ農夫や田舎の老人の口から出たものだ。〉 (第二章より)
中国農村の調査でお世話になった人たちにこの頁をみせながら、
「これはまさに私、丹羽自身の言葉でもある」と話したときの、現地の人たちの誇らしげな笑顔は、まさに『魯迅の言葉』が私にくれた最高の贈り物になりました。
昨年秋の脱原発集会の壇上で、本書中国版の帯文を寄せてくださった作家の大江健三郎さんは、こんな魯迅の言葉を引いて話されたと聞きました。
〈希望は、もともとあるものとも、ないものともいえない。
それはまさに地上の路のようなものだ。
本来、地上には路はなく、歩く人が増えれば、そこが路になるのである。〉(第五章より)
日本社会も、日中の関係も、本書刊行当初よりも辛く厳しい状況が増したように思われますが、そんなときだからこそ、もっともっと緊迫した時代のなかで紡ぎ出され、磨かれた魯迅の珠玉の言葉たちが、より多くの人々の心に響くのだろうと思います。
本を世に出す仕事の醍醐味を教えてくれたこの本と、制作に尽力くださった関係者のみなさまには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
――最後に自戒も込めて両国の人々に一言。
〈国民が、もし智恵もなく、勇気もなく、
一種のいわゆる「気(いかり)」にのみ頼るならば、それはあまりに危険すぎる。〉(第三章より)
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